日本神経科学学会

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ご挨拶

第41回日本神経科学大会

大会長 岡澤 均

(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 神経病理学分野)

神経科学の学問領域は、ますます拡大を続けています。分子、細胞、システム(神経回路)のそれぞれを深く追求するスタンスから、より広く多階層にまたがる事象を統合的に研究することが日常的に行われています。また、生理学的現象と病理学的現象は表裏一体であり、基礎的研究が直接的に疾患病態につながる事例も数多く知られており、基礎研究者と臨床研究者の連携がますます期待されています。

加えて、神経回路研究においては、Brain Initiative、Human Brain Project、そして我が国の革新脳(Brain/minds)のように、解剖学的多階層(ミクロレベルからマクロレベルまで)の情報をシームレスに結合すると同時に機能的対応をつけて脳機能を包括的に理解しようという研究が進行しています。この先にあるものは、脳という生物コンピュータを丸ごと人工的にシミュレーションして再構築するということであろうと思います。一方で、工学領域での人工知能(AI)の発展は目覚ましく、今日の社会のあらゆる局面に進出しつつあります。その先にある汎用人工知能(AGI)においては、意識、自我、理性を持たせるべきかという議論も活発に行われています。この2つの研究の流れは、極めて深い関係性を持っており、それらの回路構築あるいは回路機能の相同性と相違性は、それぞれの学問領域の爆発的発展の可能性を秘めており、これは社会に大きなインパクトを与えるであろうと予想されます。

さらに微小な分子レベルを扱う分子神経科学においても、単一分子の詳細な挙動と分子間相互作用の解析が可能になると同時に、単一分子科学を超えた全分子の網羅的解析が進歩し、多数分子の機能的相互関係をビッグデータ解析から導きだすという包括的研究が加速度的に増えつつあります。遺伝性神経変性疾患では単一遺伝子を標的とする分子遺伝学が大きな成果を得ましたが、網羅的データをベースとする統合的ビッグデータ解析は、単一分子解析では扱えなかった精神疾患あるいは孤発性神経疾患を解明に導く可能性を持っています。また、単一細胞レベルの機能解明においても、同様な手法が大きな威力を発揮するものと期待されています。この分子レベルのミクロネットワークも疾患理解と治療開発につながるのみでなく、分子マシーン開発としての発展性も含んでいます。

そして、これらの学問領域進歩の原動力として、脳の解剖機能画像技術、遺伝子編集技術、網羅的解析技術、計算論などの技術革新があることは言うまでもありません。
第41回神経科学大会においては、限られた期間と発表枠ではありますが、躍進する神経科学の現状を把握し、世代を超えて、神経科学の未来(New Horizon)を考える機会にしたいと願っております。皆様がそれぞれの素晴らしい研究成果を持ち寄り、そのピースを神経科学全体像という絵の中で議論し、神経科学の将来の発展に結びつけて頂ければと、切願しております。

7月の六甲山と港の街・神戸は、様々な楽しみも多く研究者ネットワークを広げ深める機会にもなるかと思います。皆様のご参加をお待ちしております。